乾留・蒸留 の実験(1)




  蒸発や沈殿などによって、生成物を系外に出すことで、反応の平衡を右に移動させることができる。


  1. 酢酸カルシウムの乾留による アセトンの生成:


  生石灰(乾燥用袋を3袋分開け)水を加えて 水酸化カルシウム(Ca(OH))に消化しておく。(発熱注意) この約120gをステンレスのボウルに取り、氷酢酸(CH3COOH)約200mlと若干の水を加えてよく混錬して、酢酸のにおいがしなくなっていることを確認して、よくかき混ぜながら弱火で乾燥させ、無水の粗製・酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca)を作る。 酢酸カルシウムは1水塩では乾留時に水が多く出てくる。 酢酸カルシウムの融点は 160℃と低いので、火が強いとこびりつき、固まった物はキリなどで砕いてなるべく粉砕しておく。

  この粗製・無水・酢酸カルシウム(M=158.2)約60gを 300cc平底フラスコに入れ、結構強火で30分程度加熱・乾留(160℃で溶融と共に分解開始)すると、主にアセトン(CH3・CO・CH3、M=58.1、bp.56℃)、不純物として 水、タール分が留出される。(約20ml。 アセトンのにおいと共に、タールの焦げ臭いにおいがする。) タールを除くには、水を加えてタールを浮き上がらせてから濾過して除き、60℃くらいの留分を取る。

     (CH3COO)2Ca → CH3・CO・CH3↑ + CaCO3

  アセトンであることは、ヨードホルム反応ハロゲンの実験: 4(2))で確認できる。

     R−(C=O)−CH3 + 3 I2 +4 NaOH → CHI3 ↓ + R−COONa + 3 NaI + 3 H2O    (R: H、CH3 など)

 



  2. 硝酸の蒸留採取:


  硝酸ナトリウム(チリ硝石、NaNO3、M=85.0)20gをレトルト(125cc)に入れ、濃硫酸(97%H2SO4、M=98.1、ρ=1.84)15mlを少しの水(5−10cc)で薄めて冷やしておいたものを加え、バーナーで加熱・乾留する。 硝酸ガスは非常に腐食性が強いので、レトルト(高ホウケイ酸ガラス製)を用いる。受け器は100ml平底フラスコで、水冷、および 濡れぞうきんをかけておく。
  二酸化窒素(NO2)が多量に発生することはなく、留分は 普通の 濃硝酸(HNO3)であり(無色透明)、発煙硝酸(褐色)とはなっていない。(cf. 発煙硝酸は、硝酸に二酸化窒素(NO2)を吸収させて作る。) 蒸留した後の残液は、冷却すると硫酸ナトリウムなどが結晶して固まる。 フラスコの栓はフッ素ゴム栓を用いる。
  蒸留液の1〜2mlを試験管に取って 銅片を入れると、激しく反応して NO2を発する。 ・・・ かなり濃い硝酸であることの確認。

     NaNO3 + H2SO4 → HNO3↑ + NaHSO4

     Cu + 4 HNO3 → Cu(NO3)2 + 2 NO2↑ + 2 H2O   (cf. 希硝酸: 3 Cu + 8 HNO3 → 3 Cu(NO3)2 + 2 NO↑ + 4 H2O)

  



  3. 臭素の蒸留採取: 換気注意  ・・・ 毒性が強いので吸い込まないよう気を付けてください。 多量に作らない事


  臭化カリウム(KBr、M=119.0)を、漂白剤として用いられる 過硫酸アンモニウム(ペルオキソ二硫酸アンモニウム、(NH4)2S2O8、M=228.2、mp.120℃、水によく溶ける)で 酸化と同時に、余剰の硫酸で追い出すことにより、水蒸気と共に 臭素Br、M=79.9、bp.58.8℃)が蒸留される。 この反応は、臭化カリウム+二酸化マンガン+硫酸 などの反応と違って、HBr などの酸が混じらない。

     2 KBr + (NH4)2S2O8 → Br2↑ + K2SO4 + (NH4)2SO4

  臭化カリウム水溶液(40g/100ml水)に 過硫酸アンモニウム水溶液(50g/100ml水)を、アルコールランプ等で穏やかに温めながら 少しずつ加えると、反応して沸騰しながら、水と一緒に 臭素が留出してくるので、水冷(できれば氷冷)したフラスコに集める。 最後は直火で煮沸する。
  排気管は外に出す。 (臭素で赤変したシリコンゴム栓、排気管は放置すると元に戻る。シリコンゴム管は捨てる。)

  因みに、塩化ナトリウムと過硫酸アンモニウムをまぜて加熱しても、塩素は少ししか発生しない。

  



  4. 酢酸エチルの合成:


  典型的なエステルの合成実験。

  酢酸(氷酢酸、CH3COOH、M=60.05、bp.118℃、mp.16.6℃) 90ml: 90ml ×1.049g/cm3 /60.05=1.57mol、 エタノールC2H5OH、M=46.07、bp.78.4℃) 100ml: 100ml ×0.789g/cm3 /46.07=1.71mol、 脱水・酸触媒として 硫酸(97%H2SO4、M=98.08、ρ1.84) 20ml を混合し、300mlのフラスコに入れ、上に還流用のガラス管をつけて、湯煎で 70−80℃くらいで約20分間加熱する。

  加熱後、3回に分けて、10%食塩水(塩析のため)と共に分液漏斗(125ml)に同量ずつ入れ、よく振とうして静置すると、二層に分かれる( 注)屈折率(n=1.37、 水1.33)が近く、見えにくい)ので、下の水溶液を捨て 上の不純物を含む酢酸エチルを残す。
  この3回分を分液漏斗に入れ、5%炭酸カリウム水溶液20mlを少しずつ加えてゆっくり撹拌すると、残っている酢酸や硫酸などが水層に移りCO2を発するので、(顔を近づけないようにして)時々ガスを抜く。これを数回繰り返し、最後は十分振とうする。
  上の層を取って蒸留フラスコに入れ、脱水・脱エタノールのために、無水塩化カルシウム(粒状)を10g加えて、湯煎で蒸留する。 有機溶媒の蒸留では冷水を流した冷却管をつける。(水はバスポンプ(*)か 水道水で回す)  (酢酸エチル、CH3COO・C2H5 の M=88.1、bp.77.1℃、ρ0.897) 残り1/3程度になると沸点が上がるので、直火で緩やかに加熱する。最後に20mlくらい残して終わる。 (引火注意) まず火を先に止め、逆流を防ぐためにフラスコの栓を取り、それから装置をばらす。

     CH3COOH + C2H5OH → CH3COO・C2H5 + H2O

  この反応式の平衡定数は文献より  K=4 なので、  4 = x2 / ((1.57−x)(1.71−x)) より、

    x = (4.37 ±√(4.372 − 4×3.58)) / 2 = 1.092 or 3.275(×)   ∴ x = 1.092 mol

  したがって、理論的な最大収率は、 1.092/1.57(少ない方の酢酸基準) = 0.696 ≒ 70% となる。 実量では、M=88.1、ρ0.897より、 96.2g = 107.3ml
  蒸留後の酢酸エチルの量は、大体86mlだったので、 収率は、約80%

     * バスポンプ: バスポンブ(モノタロウ、11V仕様)を、5Vスイッチング電源で使う (参考 2.(2)





  5. クロロホルムの蒸留:


  クロロホルムは、工業的には、メタン あるいは クロロメタンを、400−500℃で塩素化すると、フリーラジカル反応が起こって、順次、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素が生成し、それらの混合物が得られるので、分留してクロロホルムを得ている。 現在は、吸入麻酔剤としての用途は廃れ、アクリル樹脂などの溶剤として用いられる。

  実験室的には、アセトン、エタノールなどと、次亜塩素酸ナトリウムやさらし粉と加熱して蒸留する。(ハロホルム反応: ブロモホルム、ヨードホルムも同じ。効率は良くない。)

  高度さらし粉Ca(ClO)2 有効塩素70%) 100gを 250ml蒸留フラスコに入れ、アセトンCH3・CO・CH3、M=58.1、bp.56℃) 50ml水50mlを混ぜたものを 半量入れる。 加熱しなくても反応が起こり、発熱・蒸留がなされる。発泡が収まったら残りを入れ、発熱・蒸発を待つ。 最後は穏やかに加熱して、60℃程度の留分を取る。
  流出液を分液漏斗に移し、一度 5%苛性カリ溶液と振って塩素を除き、さらに水と振とうしてよく洗い、下層の液を取る。
    ・・・ クロロホルム:別名 トリクロロメタン、CHCl3bp.61.2℃ρ1.48、甘い芳香、水に溶けにくい、難燃性

   * 反応時、かなり発泡するので、フラスコは500−1000mlなどの大きめのものを使った方が良い。


     CH3・CO・CH3 + 3 Cl2 → CH3・CO・CCl3 (トリクロロアセトン) + 3 HCl

     CH3・CO・CCl3 + Ca(OH)2 → CHCl3↑ (クロロホルム) + (CH3COO)2Ca (酢酸カルシウム)

   (全体の反応は複雑で、水も消費し、酸素が発生する:  2 CH3・CO・CH3 + 6 Ca(ClO)2 + 2 H2O → 2 CHCl3↑ + 2 (CH3COO)2Ca + Ca(OH)2 + 3 CaCl2 + 3 O2↑)

  アセトンの代わりにエタノールを用いれば、ギ酸カルシウムが生じる。
     C2H5・OH + Cl2 → CH3・CHO (アセトアルデヒド) + 2 HCl
     CH3・CHO + 3 Cl2 → CCl3・CHO (クロラール) + 3 HCl
     2 CCl3・CHO + Ca(OH)2 → 2 CHCl3↑ + (HCOO)2Ca (ギ酸カルシウム)

   




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